Text:飛内将大
“カットアップ”という言葉を聞いたことはあるだろうか。僕個人にとっては週に62回は脳内で叫ぶほど、ごく身近な言葉だ。
“カットアップ”という文化は、印刷物を切り取り、並べ替えて新しい文章を組み立てるという手法が始まりだった。刑事ドラマやサスペンスなんかで犯人が送りつけてくる、雑誌や新聞を切り取ってバラバラにした文字を並べて作った手紙が、まさにその“カットアップ”。この場合、1文字ずつ切り取って作っていることが多いものの、単語や文章単位で作り上げたり、無作為に選んだりと、斬新な文字列を創造する手法として、数多くの詩人や小説家が創作活動に取り入れてきた。
その流れは、音楽界へも大きな影響を与えた。デヴィット・ボウイを筆頭に、NIRVANAのカート・コバーン、Radioheadのトム・ヨークが作詞に取り入れたことで有名だ。
録音機器が進化し、テープレコーダーやコンピューターが流通したことで、“文字列のカットアップ”を応用し、“音をカットアップ”するという技法が生まれ、新たな音楽ジャンルの誕生に大きな影響を与えた。テープを切り取って並べ替えるミュージック・コンクレート、サンプリングしたリズムトラックを並び替え、新たなグルーヴを生み出すブレイクビーツ、EDM〜トラップ界隈でのボーカルドロップなど、カットアップは現在も音楽の進化と共にある。
今回は、カットアップすることで、音がどう変化していくのかをご紹介したい。使用するのは、【前回】の記事で作った岩盤浴的アンビエントミュージックである、こちら。
この音を、まずは人参や長ネギを切る要領で、輪切りにしていく。そして、切り分けた野菜から悪くなった部分を取り除くかのように、自分が調理しやすいお気に入りの部分だけを抜き出して並べ変えていくと、こんな感じ。
さらに、食べやすさや色どり、食感を自らの感性と向き合いイメージしながら、短冊切りやみじん切りなどを使い分け、材料を切り分け並べていく。
このように、カットアップすることで素材にテンポ感を与え、新しい表情を作ることができるのだ。今回は、曲として完成したアンビエントミュージックを素材とした。しかし、例えばギターの余韻を切り捨てることで、歯切れの良いサウンドを作ったり、ボーカルがロングトーンで歌い上げているところをあえて切り刻んでみたりと、各パートに取り入れることで、刺激的なサウンドデザインを構築することだってできる。
ぜひ、音を作る武器のひとつとしてカットアップを積極的に取り入れ、週に62回以上脳内に“カットアップ”という言葉を轟かせるような、立派な大人になっていただきたい。
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