Text:agehasprings Open Lab.
前回、序章としてBring Me The Horizonが『That’s the Spirit』で提示した“ヘヴィネスの再定義”の重要性と、それによって再起動されたシーンに生まれた新しい潮流への言及を行いました。今回は、この4つの流れをそれぞれ詳しく紹介していきます。
☆前回の記事はこちらから
進化し続ける2017年のPHC/Metalcoreシーン ~序章~
Bring Me The Horizonによる“ヘヴィネスの再定義”がなされた『That’s the Spirit』以降のシーンにおいて、メタルコア/エレクトロコアバンドらのアティチュードとして顕著だったのが、脱ヘヴィネスによる“ポスト・メタルコア化”と言っていいでしょう。
PHCにメタルコアのマナーを取り入れ、よりヘヴィーでソリッドなプロダクション・メイクに傾倒していたバンド達は、“スクリームパートを減らし、クリーンパートを主軸に置く”ことや、“メタリックなギターを減らし、攻撃性を抑える”ことなど、メタルコアにPHCのマナーを取り入れるという、これまでとは逆説的なメソッドでのアプローチを始めます。
PHC/MetalcoreにEDMの要素を色濃く取り入れたサウンドで、黎明期からエレクトロコアシーンを牽引し続けるI SEE STARSが2016年に上梓したアルバム 『Treehouse』は、まさにこの “ポスト化”の流れを象徴する1枚だったと言えるでしょう。
それまでのエレクトロコアの文脈であった、「エレクトロのマナーを取り入れ、エレクトロサウンドでアレンジ、装飾したメタルコア」というフォーマットを、逆説的にサウンドに落とし込んだ「エレクトロからメタルコアへのアプローチ」なるメソッドを、類稀なるセンスで見事に音像化しました。エレクトロを軸に、メタルコアのバッキングによって肉体性を付加され、バンド然とした音像にビルドアップされたプロダクションは、まさに「ポスト・エレクトロコア」と称するべき、新しいデザインのサウンド。2005年に端を発した、エレクトロコアの一つの回答に至ったレコードであると言っても過言ではありません。
そして、「ニューメタル・リバイバル」の仕掛人である(詳細は後述)、Issuesが2016年に上梓した2ndアルバム『Headspace』。
この作品で彼らが提示したのは、「ブラックミュージックからメタルコアへのアプローチ」。それまでのメタルコア路線は残しつつも、リズムを強調したDjent由来の縦打ちのビートをレイドバックさせることで、ブラックミュージック然とした横揺れのグルーヴに変換されたバッキング。そこに溶け合うR&Bシンガー然とした、クリーンVo. Tyler Carterのメロウネスな歌声。徹頭徹尾ポップなテクスチャで構築された『Headspace』は、ポスト・メタルコア的であるのと同時に、DjentのバッキングでビルドアップされたR&B。近年のIndie R&B以降の流れに倣って言えば“ジェントR&B”とも称するべき、1stに次いでシーンにとっての新たな地平を切り開いたレコードと言えるでしょう。
そして、彼らを筆頭に、ポスト・メタルコア化が顕著に見られるのは、それまでの作品でメタルコアに傾倒していた、シーンにおいて中堅の立ち位置にあるバンド達。Emarosaの初代Vo. Chris Roetter率いるLike Moths To Flamesも新作『Dark Divine』で脱ヘヴィネスを図り、クリーンパートを大幅に増加。メタリックなフレーズやブレイクダウンも息をひそめ、ある意味お手本とも言うべきポスト・メタルコアのマナーに則ったプロダクションにシフトしています。
ポスト・メタルコア化の流れからも分かるように、『That’s the Spirit』による“ヘヴィネスの再定義”は、これまでシーンに蔓延していた、フォーマット化されたヘヴィネスを解体するのと同時に、クリーンパート(メロディーパート)の重要性を再構築したとも言えます。
その再構築後の潮流として、ポスト・メタルコア化と同じく顕著な動向が見られたのが<スクリーモ・リバイバル>というムーブメント。象徴的な出来事としては、SAOSINに初代ボーカルであるAnthony Greenがカムバックし、2000年初期のスクリーモが内包していた、悲痛にも似たヒリついたエモーションを、匂いや質感そのままに現代に蘇らせた、屈指のスクリーモ・レコード『Along the Shadow』を上梓したことが挙げられるでしょう。その後も、このジャンルにおけるクリーンパートの重要性を思い出したかのように、ヘヴィネスからの脱却。場合によっては、スクリームパートすらも一切排したプロダクションを提示するバンドが多数台頭しました。また、独自のセンスでモダナイズしたスクリーモを提示する、いわゆる「当時聴いていた世代」のバンド質が、それに呼応するように続々と産声を上げているのも非常に象徴的です。
また、こちらもSAOSINと同じく、シーン黎明期を牽引したFrom First To Lastに、現在はSKRILLEXとして世界的に活躍している二代目Vo.であったSonny Mooreがカムバック。2000年初期のシーンを彷彿とさせる、デカダンなスクリーモ・ナンバーをドロップしたことが、リバイバルの到来を決定付けたのは言うまでもないでしょう。
更には、12月にリリースする最新アルバムでカムバックを果たすStory Of The Yearが、先日公開した新曲「Bang Bang」。これは、オルタナロック、メタル、スクリーモを通過した、2005年当時の彼らを想起させる『In the Wake of Determination』にも通じるプロダクション。
こうした、シーンの黎明期を支えた大御所のバンド陣が、昨今のムーブメントに共振するように、トラディショナルとも言えるデカダンなプロダクションのレコードを立て続けにドロップする動きは、彼らを聴いて育った新世代のバンドにとって道標そのもの。スクリーモ・リバイバルの波はまだまだ終わりそうにありません。
Story Of The Year「Bang Bang」元Woe, Is Meのメンバーによって結成されたIssuesが、2014年に上梓した1stアルバム 『Issues』。R&B、Hip Hop、Dubstepなどの文脈を雑多に取り入れマッシュアップすることで、メタルコアからNu-Metalへのアプローチを実現。Linkin Park、Kornら、以降のNu-Metalのマナーやフォーマットをモダンにアップデートしたシーンにとっての、マスターピース的な1枚となりました。
Issuesが提示したサウンドは、メタルコアから派生したニュー・メタル、いわゆるNu-Metal/Nu-Metalcoreとも呼ばれ 、『That’s the Spirit』による再定義以降に発生したリバイバルの動向にも共振。更には、世界的なラップミュージックのメインストリーム化の流れも追い風となり、ムーブメントは更に拡大していくことになります。
Issues以降の“メタル×ブラックミュージック”系譜のNu-Metalだけでなく、Linkin Park、Korn、Papa Roachらが一線で活躍していた当時の文脈である90年代のNu-Metalを、メタルコア由来のアグレッションでモダナイズするバンドも続々と台頭。90年代Nu-Metalを踏襲したテクスチャのサウンドに、Djentのリフを取り入れ、モダンにデザインされたNu-Metalを提示したSylarなどは、まさにこのムーブメントを象徴する存在と言えるでしょう。
デスコア×ラップという、シーン最重量を誇るマッシブなサウンドで人気を博すAttilaも、7thアルバム『Chaos』で、90年代のNu-Metalに傾倒したバウンシーなNu-Metalのサウンドにシフトしたことは、ムーブメントを決定づけるファクターとして、非常に顕著であると言えます。
Attila「Bulletproof」そして、2012年にYouTubeにローンチされた、叙情系のキュレーションメディアチャンネル・Dreamboundが2016年以降のシーンにもたらした功績も、以降に生まれた文脈として語るべきトピックの一つです。
これまでのBurning Down Alaska(現ALAZKA)を始めとし、数々の良質な叙情系バンドをピックアップしてきた同チャンネルは、SNSの影響力が全盛を迎えると共に、認知度を高めていくこととなります。同チャンネルの存在はSNSでのシェアを発火点として、コアユーザーの間で「Dreamboundで紹介されるバンドはどれも良い」と瞬く間に話題に。
これまでは、数少ないプッシュ型のメディアによるリリース。もしくは、掲示板や個人の運営するブログなど(もちろんビルボードのチャートにランクインするバンドは、ほぼ皆無なので)、極めてローカルなエリアでの情報共有が行われてきたこのシーン。私自身も、新しいバンドを探すために、個人のブログや某大型掲示板のスレッドを巡るのが日課でした。そんなクローズドなシーンにキュレーションを持ち込んだDreamboundは、今後更に重要なプラットフォームとなっていくことでしょう。
また、Dreamboundというキュレーションチャンネルの成熟によって、叙情系が再び評価される土壌が出来つつあると、私は考えています。
これまでのメタルコア一強時代において、叙情派PHC系譜のバンドがシーンの一端を担う立役者としてとして言及されることは無く、叙情派シーンという極めてドメスティックなレイヤーの中でのみ語られる存在であったというのは、決して過言ではないでしょう。
しかし、Dreamboundの隆盛によって、叙情系バンドもシーンのメインストリームに届き得る道が出来たことは、紛れもない事実。実際に、このチャンネルでピックアップされたことにより知名度が急上昇し、注目を集めたバンドも少なくありません。叙情系キュレーションチャンネル・Dreamboundの台頭と成熟は、シーンの構造自体をアップデートする、今後のシーンにおいて、最重要ファクターの一つと言っていいでしょう。
次回、後編では、2017年にリリースされた重要な「アルバム」をピックアップしながら、今年のシーンの動向を振り返っていきます。
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