Text:飛内将大
リバーブ。非日常を生み出す夢のエフェクター。
リバーブ。君さえいれば、トイレ、風呂、教会、スタジアム、どこへだって行ける。もとい、行った気分になれる。
以前、リバーブを使用してピアノをアンビエントミュージックにする方法をお見せしたが、そのリバーブ、正式名称「リバーブレーター」について、あらためて紹介していきたいと思う。
ホールや教会、スタジアムなど様々な残響効果(リバーブ)を生み出す音響機器。いわば、魔法に極めて近いエフェクターだ。
リバーブの歴史はエコー・チェンバーという「部屋」から始まった。
1930年代までは、演奏を録音する部屋の大きさを変えたり、反響板を立てたりすることで残響をコントロールしていたが、エフェクターとして残響を加えるといった手法はまだ生まれていなかった。というのも、当時のレコードは“モノラル”。現在では当たり前に使われている、2つのスピーカーから別々の音を出す“ステレオ”に対し、モノラルは1つのチャンネルしかない。そのため、音の響きや空間の広がりの表現力が乏しく、余計な残響を抑えてドライな音で録音することが主流となっていた。
世界初のステレオ録音盤が市販されたのは1958年のことだが、それまでの間も録音やミックスにおいて実験的に技術革新が行われていった。その流れの中で生まれたのが、空間にスピーカーとマイクを用意し、その空間に響かせた音を録音して元の音に加える手法。それがエコー・チェンバーだ。
残響の少ないスタジオでレコーディングした音を、例えば風呂にスピーカーとマイクを持ち込んで録音し直すと、風呂の響きを加えることが出来る。教会や、スタジアム、井戸でもいいだろう。貞子ん家の響きを加えることが出来る。世界中のレコーディングスタジオに、音を響かせるためだけに使う“エコー・チェンバーのための部屋”というものが設置された。原始的ではあるが、録音後に響きの量をコントロールするという概念の誕生だ。
1950年代に入り、機械的にリバーブを生み出す装置が登場する。
まずはどのご家庭にもあるであろう、畳ほどの大きな鉄板(プレート)を吊るし、それに向かって叫んでみて欲しい。すると鉄板に声が共鳴し、金属的な響きの余韻が生まれる。それが1957年ドイツで生まれたEMT140という史上初の“プレート・リバーブ”である。
もちろん、実際に鉄板に向かって叫ぶなど変態的なことをしていたわけではなく、電気信号として変換された音を鉄板に流すことで響きを得ていた。
この“プレート・リバーブ”の残響は、とても滑らかで美しく、現在でもボーカルミックスなどに欠かせない効果のひとつとなっていて、シミュレートされたプラグインも多数存在している。エコー・チェンバーのような“部屋”を持ち歩くことは困難だが、運ぶことが出来るようになった最初のリバーブレーターがこのプレート・リバーブである。
次回は、バネを使用したスプリング・リバーブについて触れたいと思う。
是非、巨大なバネをご用意の上、お待ちいただきたい。
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