Text:東放学園音響専門学校 川﨑 悠
今回で4回目の開催となった「CONNECT歌舞伎町」。観光地としてもスポットを当てられている"日本一の歓楽街"が舞台となり、国境をも越えて大勢の人が来場した。老若男女一緒に楽しめるラインナップの中から、若手ミュージシャン4組をレポート!
新宿MARZのトップバッターに大抜擢されたのは、15歳の諭吉佳作/men。MacBoookの横に置いてあるグラスの中に手を入れると、おもむろに中身を掬っては落とす動作を繰り返した。雑踏を想像させるSEの中、煌々と響きわたるコインの合奏。右へ左へ、ゆらゆらとステージを彷徨うと、1曲目の『非常口』が始まった。絶妙な間隔で重ねられた打ち込みによる演奏の上で、ていねいに歌う。低音は腹中を渦巻くように、高音は脳を貫くように。歌の抑揚がシックな雰囲気を醸し出す。小柄な身体からは想像できない歌の質量に、誰もが真剣に聴き入っていた。
続いて、純粋な愛が描かれた『別室で繭を割った』を披露。マイクコードを弄りながら、独り歌唱するシルエットはどこか切なげで。その小さな体に結んだ想いを解き放つように、気高く歌い上げた。「この瞬間がもっと愛しいと」今立っている”このステージ”を愛おしく想う気持ちが、確かに注がれていた。ただまっすぐに伝えるその姿は強く逞しく、大人の女性に見えた。聴かせる曲から、踊りたくなる曲へ。光、音、人とが一緒に波打つフロアは華やかで、一貫してクールな表情だった彼女にも笑顔が浮かぶほど。着々と磨きを増していき、最後に披露したのは『水槽のガラスだけだよ』。厚みのある声で歌いながら、クルクルと回ったり、いたずらにコインをくすぐったりと、少女らしく無邪気にステージを楽しんでいた。
最後まで諭吉佳作/menというミステリアスな世界観に翻弄されっぱなしで、子供から大人へと変わりゆく年齢だからだろうか。彼女の歌には、純真さを感じられるだけでなく、大人になると曲折してしまう思考にもフィットし、引き込んでいく力がある。伸びゆく才能が恐ろしくも、これからどのように進化していくのか。未知なる可能性に胸踊らされたステージだった。
Photo:スズキメグミ
新宿MARZに登場したのは、北海道出身のThe Cynical Store。スタートの『Feel So Good』から、どすの効いたギターリフを轟かせる。Issei(Vo&Gt)の奇声に近い一声が符合すると勢いが増した。無遠慮で荒々しいサウンドは決して媚びない男臭さを感じさせ、妙に色っぽくセクシーだ。それでいてクールな彼らの音楽。オーディエンスの胸の高鳴りに比例して、フロアの熱も膨張していった。
『Ring Ring』ではYoji(Vo&Syn)がタンバリンでシンバルを力いっぱい叩き、『Happiness』ではHayato(Gt)が仰向けで弾き乱れていた。この豪快な演奏スタイルも彼らの魅力のひとつと言えるだろう。とにかく自由。だからこそオーディエンスも、ハンドクラップをしたり、身体を折りたたんだりと、各々が気の向くままにのることができている。そう、ただ彼らの音楽に身を委ねればいいのだ。縛るものも遮るものも、此処には一切存在しない。
ますます熱を上げていったフロアへ追い打ちをかけるように届けたのは、ラストナンバー『Nightmare』。イントロの轟々たるギターの勢いのまま駆け抜けるのかと思いきや、Isseiの柔らかい歌声は浮遊感を抱かせる。だがそれもまた束の間で、再び勢いを取り戻してはさらに激昂してみせた。まるで嵐のような展開っぷり。予測できない振り幅の広さに、終始躍らされてばかりだった。The Cynical Storeの血気強さに、オーディエンスも奮い立たされたことだろう。ステージが終わった後も上がっていた口元。それが紛れもない証拠だった。
Photo:スズキメグミ
タイムテーブルも折り返しを迎えた頃、Zirco Tokyoのステージに登場したのはMellow Youth。まだ若く、結成間もない彼らだが、『SYNCHRONICITY’19』にも出演した注目のバンドだ。1曲目『Rouge&Memory』から漂うのは、眠らない夜の匂い。副旋律を担うギターは時に弾むように、時に踊るようにイタズラっぽく奏でられ、いっそうディープな都会の雰囲気を際立たせていた。なんといっても、特筆すべきは石森龍乃介(Vo)の甘い香りを燻らせるような低い歌声だろう。片手をポケットに入れ眉間に皺を寄せながら歌う様にも、うっとりさせられる。フロントマンである彼こそがバンド名を象徴しているかのようで、まさに"メロウ"そのものだった。
キャッチーなギターリフから始まった『Neon sign』。派手に音が重ねられた間奏は、行き交うヘッドライトやビル明かりなどを想像させた。一方、ギターソロは切なげに奏でられ、人が多い都会だからこそ感じる孤独の寂しさを仄めかしていた。陰があるから陽が照るように、このほんの僅かな寂しさが、彼らの"エモーショナル"を引き立たせているのだと思う。
続いた『FUSE』のサビでは、伊佐奨(Vo&Gt)の芯のある歌声に寄せられた、石森の淡い歌声。正反対の声色によるハーモニーは、目を瞑り酔いしれてしまいたくなるほど心地いい。いっそう深まった情緒がフロアを風靡していた。彼らのハイセンスな音の連ね方は、今の音楽シーンにどのような影響を及ぼすのだろう。Mellow Youthと時代の流れに今後も注目していきたい。
Photo:池谷睦美
いよいよ夜が始まる時間帯。新宿LOFT BARに登場したのは中村パーキング。爽やかなロックチューン『エーテルハロ』でスタートを切った。石川愼(Vo&Gt)は、濁りのないハスキーボイスで開放的にサビを歌うと、オーディエンスはそれを追いかけるように片手を伸ばしていた。1曲目から一目でわかる一体感。これが路上ライブでも多くの人の足を止めてきた、人懐っこい彼らの音楽なのだ。
サポートベーシスト白井智也(Ba)の階段を駆け上がるようなベースラインから『マジック』へと続く。間奏では、久田将也(Dr)がソロを披露。視線が集まる中、巧みなドラミングでフロアを沸かせていた。さらにドラム以外の楽器で、隙間を縫うように奏でられた息ピッタリのカッティング。勝手に反応してしまうのか、オーディエンスはタイミングを合わせて手なり首なりを使ってリズムにのっていた。石川が「最後は僕たちの一番のポップソングで終わりたいと思います!」と伝えたラストナンバー『サイクルノート』。オーディエンスは始まりから手拍子をし、冷めることを知らない熱気に煽られたのだろうか。なんと渡邉圭(Gt)がステージを降り、1人のオーディエンスをロックオン。すると、ゼロ距離でギターソロを披露したのだ。
彼はメンバーの中でもムードメーカーで、人を笑わせる引出しを沢山持っている。そんな彼ならではのサプライズパフォーマンスと、それを微笑ましく見守るメンバーたち。音楽性だけでなく人柄までもあたたかい中村パーキングだからこそ、オーディエンスは自由に手拍子をしたり手をあげたりできてしまうのだろう。メンバーもオーディエンスも、フロアのみんなが笑顔を浮かべ、一緒に楽しんでいる光景が印象的だった。
Photo:冨田味我 / MAYUMI-kiss it bitter-
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