RESPECT interview Vol.1 藍坊主Vo.hozzy『木造の瞬間』インタビュー

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新たにはじまったEggsのインタビューコーナー「RESPECT」(リスペクト)。

ここではEggsを活用するアーティストにとって先輩にあたるアーティストに、作品のことやアーティスト活動についてなどを取材。音楽活動をするためのヒントを教えてもらうコーナーです。

第一回のアーティストは藍坊主

前作『Luno』から1年4か月ぶりとなる最新作『木造の瞬間』(キヅクリノシュンカン)を完成。今作ではレコチョクが運営する共創・体験型プラットフォーム「WIZY(ウィジー)」にて、楽曲「群青」の世界観を映像として多くの人に伝えたい、というコンセプトのもと、全国のサポーターとともに映画『太陽の夜』を制作。さらに、初回限定盤にはVo.hozzyが今回の為に書き下ろした、これまでのバンドの軌跡を振り返る32Pにおよぶストーリーブックを同するなど、常に新境地に挑む姿勢をみせた藍坊主に、現在の心境を訊いてみた。


Interview:Takeshi.Yamanaka
Photo: 塚本弦太


──2015年にLuno Recordsを立ち上げて、自らの手でバンドを運営されてきましたが、この2年間を振り返ってみるとどうですか?

やっぱり実際のバンド運営はすごく大変なんだなと思いました。やることの量もそうだし、お金をどう使っていくべきなのかとか。そういうところが全部解るので、“ちゃんと考えないと潰れるぞ”っていうリアリティはありますね。

──確かに。

例えばサラリーマンとして社会に出てもそこまでのことにはなかなか関わらないじゃないですか。そういう部分は、以前とは違う感覚になってるのかな。でも、大変だけど気は楽っていう感じですね。

──トライ&エラーというか、自分たちが考えて行動を起こしたことに対する結果が見えやすいというメリットもあると思うんですが。

“これをやったらダメなんだな”となるとすぐに方向を変える、みたいなことはありますね。例えば友達のバンドにライブに誘われて、なにも考えずに「やるやる!」と返事して。でも移動だけでも結構お金がかかるじゃないですか。

──遠方だと宿泊もあるし。

スタッフの人件費もありますし。そういうことをなにも考えずにやると、すごく赤字になったりとか(笑)。

──なったんですか(笑)。

ありますよ(笑)。ある時期、ライブをやればやるほど赤字になっていくんですよね(笑)。出演を決めちゃってたから入れた分はやらなきゃいけないんですけど。ちゃんと考えて、このくらいの予算がないと本当に赤字になる、ということをクリアにしていかないといけないなって。集客もそうだし、“ここならどのくらいお客さんが来てくれるだろう”とか、ちゃんと計算してやっていかないといけないなって。

──現実に直面する機会は多いでしょうね。

事務所に所属していると、お金のことなどはシャットダウンするんですよね。もちろんケアしてもらってるという部分もあると思うし。

──マネジメントはアーティストを守るという側面もありますからね。

ミュージシャンは、そういう部分は知らないケースの方が多いだろうから、無茶なことを言ったり不信感みたいなものが出てきたりするけど、実はかなりがんばってくれていたんだなって。なんであんなに怒られたのか、今になってわかるという(笑)。

──ハハハ(笑)。

今から考えると「そりゃ怒るわ」って(笑)。(事務所に所属していたときは)よくやってくれていたんだなとか、そういう気持ちも分かるようになりました。バンドのリアルなところがわかるようになったし、感謝も増えましたね。

──「感謝」という言葉が出ましたけど、自分たちでバンドを運営をするようになると、お客さんの存在も今まで以上にはっきり見えると思うんですが。

そうですね。お客さんには本当に感謝しかないです。今回の初回特典に付くストーリーブックレットの原稿は僕が書いたんですけど、その文章を書くにあたって過去のことを色々と振り返ったんです。その中で、自分の調子が悪いときはバンドもそれに伴って停滞感があったときがあって。その悪かった時期、ライブに来てくれた人たちとか、ライブのときに声をかけてくれた人たちのことを思い出して。すごくありがたかったなと思ったんです。

──支えてくれていたんですね。

僕が藍坊主とは別のソロプロジェクト「Norm」でアートワークとか音楽をやったときも、バンドのファンの方が中心なんですよね。そんなことを色々と思い出すと、やっぱり感謝しかないなって。本当にこの人たちが居なかったら音楽ができないんだなって。こんな素直に思える日が来るなんて、思ってもみなかった。

──お客さんのありがたみがひしひしとわかると。

みんなそれぞれの人生がある中で、藍坊主のために時間を使ってくれたり、お金を使ってくれたり…色々な気持ちをもって接して来てくれているということを、ここ1年くらいですごく実感しましたね。

──そういう実感は作品作りに影響しましたか?

影響していると思いますね。僕の曲ってスレてる感じがあるじゃないですか。

──はい。最近はそういう印象はあまりないですけど、スレてた期間が長かったというか。

長かったですよね。そういう感覚は今も分かるし、今もあったりもするんだけど…もっと“人間らしい気持ち”みたいなことを、ちゃんと歌えるようになってきた。抵抗なく。

──以前は抵抗があったんですか?

やっぱりちゃんと自分が思ってないと歌えないというか。今回の歌詞に“愛してる”という言葉が入ってるんですけど、こういうストレートなフレーズもすっと書けるようになってきたんです。

──感謝の気持ちがはっきり芽生えたことが大きいんでしょうか?

そうですね。ファンの方や手伝ってくれる人、家族に対して。やっぱり僕は1人じゃ生きていけないんだな、みたいな。10年前は「まだ俺は1人でもやっていけるぜ」みたいな気持ちがないと生きていけない時期だったと思うんですが、でも今はそうではない。そういうことじゃなくてもちゃんと生きていける、という感覚。自分でもそういう気持ちに対して違和感がないんです。

──2017年は配信シングル『群青』をきっかけにして映画を制作しましたけど、あの映画も監督しかり、WIZYで応援してくれる人が居なければ実現できなかったわけですよね。それに“京都大作戦”に出演したということも2017年の大きな出来事だったと思うんです。以前からの繋がりの中の“再会”というか。

そうですね。再会が本当に多くて、今作のプロデューサー兼ディレクターは『ハナミドリ』を一緒に作っていただいた方なんです。2016年に『ハナミドリ』のリバイバルツアーをやったんですけど、そのツアーのファイナルに来てくれたんです。

──それは嬉しいですね。

リバイバルツアーはファンの方がすごく喜んでくれて、「『ハナミドリ』の頃の曲はやっぱりよかったな」とメンバーとも話していて、またその方と制作したら独特な色も出てバンドも良くなるんじゃないかなと思って。10-FEETもそうですし。

──“京都大作戦”だけではなくて、10-FEETのツアーにも呼んでいただいたんですよね?

はい。めっちゃ嬉しくて。会社もなにもかも垣根を超えて、人と人の繋がりで活動が出来ているというか。そういうところも含めて、感謝することが多いです。

──今回リリースするミニアルバム『木造の瞬間』ですが、作品としてのスタートは「群青」だったんですか?

作品としてはそうですね。もっと前に作った曲も今作には収録しているんですが、「群青」を作って“あっ、これだな!”という感触があったんです。さっき言っていたプロデューサー兼ディレクターも「群青」から手伝ってくれていたので、作品として「群青」がある上で“こういう曲があったらいいな”という感じで本格的に制作を始めた感じです。

──「群青」で得た感触は、具体的にはどういったものなんでしょうか?

「こういう曲を作りたかった」というか…うまく説明できないんですけど。

──「群青」は畳み掛けるような、湧き上がるエネルギーがある曲ですよね。

ライブでやったときに “かっこいい”と思ってもらえるような曲、かつメロディラインが…特にサビなんですけど…僕的にはすごく藍坊主っぽいものというか。

──あ、そうですよね。藍坊主っぽい。

わかります?

──サビの広がり方というか。

「ハローグッバイ」はそういう匂いのメロディだと思ってて、そういう曲を久しぶりに作りたかったんです。ツアーに向けて新曲を作るときも「そういうの作れたらいいね」とメンバーと話していて。とは言え、「作りたい」と言っても作れる訳ではなかったから、「でも簡単じゃないよな」みたいな話をしていたんです。でも家に帰ってオケから作ったんですけど、その日の夜にできちゃって。

──その日に?

はい、すぐだったと思います。それがすごく嬉しくてテンション上がって、映画監督の勝又さんに電話して「勝又さんも好きな曲だと思いますよ」と言って聴いてもらって。そこから色んなことが始まっていった。

──今作のきっかけを作った曲でもある。

そうですね。単純にワクワクしたし、「群青」のおかげですごく強くなった。

──音楽から受ける初期衝動ってそういうものですよね。触れただけでワクワクして自分が強くなった感じになる。

それが僕たちにはすごく必要だったんです。調子が悪いときというのは、音楽がどんどん自分から離れていってしまっている気分だった。そういうときって自分も音楽から離れてるし、「ずっと毎日音楽と向き合ってれば近くなれるのか?」というとそうじゃなかった。

──はい。

別にしばらく作曲をしてなかった訳ではないんですけど、でも“もう一度音楽が近づいてきてくれたのは何だったんだろう?”と考えたら、そのワクワクした気持ちだった。

──なるほど。

そのワクワクは別に音楽じゃなくてもいいんですよ。何か絵を描くとかでもいいし、おもしろい映画を観るでもいい。でも映画だと、ただおもしろいだけじゃなくて、“それを超える何か”があったときにグッと音楽が近づいてきてくれていたんです。それこそ「群青」を作った後に勝又さんがプロットを書いてくれる、みたいな出来事とか。

──うんうん。

それだけでワクワクして、音楽がグッと近づいてきて、歌詞がガーッと出てきたり。そういう距離の縮め方は楽しいし、やっぱり楽しくないと音楽って作れないんだなと。

──音楽を作るということの、根本的な部分に改めて気付いた。

「音楽が楽しい」ということは、やっぱりプロでやっていくとかなり難しいと思うんですよね。もちろん仕事だからキチンとやらなくちゃいけないけど、それだけで音楽は作れないし。その距離感を詰めるのか、離れるか、みたいなところが重要になってくる。

──「群青」はその距離を縮めてくれた。

そうですね。「群青」ができる少し前にM-4「同窓会の手紙」ができていたんですけど、この曲はもともと僕がソロでやるために作ったんです。ソロを結構楽しんでたということもあって、思い返してみると、楽しいからこそできたのかなと。バンドだけじゃなくて自分のやりたいこともやって、それをバンドに還元しているというか。やっぱりおもしろくないと音楽はできないですからね。

──「楽しみながら」「ワクワクしながら」ということですけど、今作は“別れ”が全部共通項になっていると思ったんですが…。

そうなんですよ。

──でも別れを否定的に捉えている訳ではない。別れの先を歌っているというか。

そうですね…そうなんです(笑)。でも、なんで“別れ”がテーマになったのかわかんない(笑)。

──え?

狙った訳じゃないんです(笑)。最後揃ったときにそうなってたんですよね。藤森が書いた曲もそうだし、なんかやたら別れの曲だなと思って。悲しい訳じゃないのに。

──“別れ”がテーマになっているということでいちばん顕著なのはリード曲のM-3「嘘みたいな奇跡を」だと思うんですが。

「嘘みたいな奇跡を」は今作の中でいちばん最後に作った曲なんですよね。その前にM-5「トマト」を書いたんですけど。

──「トマト」も“別れ”を描いていますよね。

そうですね。例えば生まれ変わりがあるかどうかなんか分からないじゃないですか。恐らくほとんどの人が、生まれ変わることなんか信じてないと思うんです。

──はい。

テレビで誰かが生まれ変わりのことを言ったら絶対バカにするじゃないですか。前世が「どこどこの貴族で」とか言われたりしたとき。

──そうですね。“あ、スピリチュアル系の人だ”と思うでしょうね。

でもそれが自分のことになったとき、生まれ変わりの話じゃないですけど、亡くなった人に対しては仏壇に手を合わせる。その行為自体をバカにする人は居ないですよね。本当に自分がもし生まれ変わることがあるのなら、亡くなったおばあちゃんに会いたいと思うし、もしかしたら生まれ変わってどこかで生きてるのかなとか考える…そういう気持ちをバカにする人は居ないですよね。

──はい。

そう考えると、生まれ変わると考えることは、すごく人間らしいなって。

──動物はそうは考えないでしょうね。人間ならではの考え方というか。

だから矛盾してるんですよ。生まれ変わりを信じない人だったとしても、近い人がいなくなったら悲しいじゃないですか。「それってなんでなの?」っていう、人間の矛盾みたいなのを書きたかった。

──なるほど。

言ってもらったように今作は“別れ”が共通してるんですけど、“別れ”に直面した瞬間は色んな感情が集まってくると思うんです。さっき言った感謝もそうだし、悲しさも、ありがたさ、嬉しさ、切なさ…。要するに、普段は感じることはないけど、全部本当のことというか。

──感受性が豊かになる瞬間というか。

今回の『木造の瞬間』というタイトルもそういう意味で付けたんです。例えば普段…学校とか仕事場とか…を鉄筋コンクリートの様な心の状態だとしたら、そういう状態で、別れの瞬間に立ち会ったときのようなプライベートな心って絶対出せないじゃないですか。出したところで、例えば急に電車で泣いた人がいても「なんだこの人」となるじゃないですか。

──なりますね。

そんな状態ではなくて、やっぱり別れの瞬間のような、すごくプライベートな状態になってるときって“心が木造みたいな”感じだと思うんです。木造住宅に抱くイメージは、温かさや脆さ、懐かしさもそうだし、そんな感じに心がなってるんじゃないかなって。それで『木造の瞬間』と付けたんです。

──感情のボリュームが大きくなった瞬間を音楽にしたかった。

したかった。

──そういうものが今作に詰まっていると。

そうですね。結果的に、共通するテーマが“別れ”になっちゃったけど、なぜそうなったのかは自分でも分からないんですよ(笑)。

──まだ消化できてない感じですよね。でも一方でM-6「かさぶた」は、バンドの今の心境がリアルに表れているのかなと思います。

そうですね。

──自由に対する怖さや、伴う責任だったり。

「かさぶた」は『木造の瞬間』の中ではいちばん古い曲で、『Luno』という前作のアルバムを作ったときにインタビューしてもらった帰り道に思い浮かんだ曲なんです。だからおっしゃる通り、バンドの心境がそのまま出ていると思う。『Luno』を作ったけど、色んなところで評価が分かれたんです。「藍坊主変わっちゃった」とか、ちょっと否定的な感想が聞こえてきたんですよ。それで“ここまでがんばってきたけど、俺たち前進してるのかな?”って。

──不安にかられていた。

“積み上げてるつもりになってるだけで、諦めた方がいいのかな?”とか、自分の心の声が聞こえてくる。でも「はい。じゃあ辞めます」と言って辞めてもいい状況というか…それは今もそうですけど…事務所やレコード会社との契約があるからとか、そういう話でもなくて。

──自分たちで決めることができる。

そう。そうなんですけど、“やっぱり辞められないよな”という。そういう気持ちだったし、今もその気持ちは同じだし、1年前くらいからすごくいい曲が書ける予感がしていたんです。「かさぶた」はそういう心境で書いた曲ですね。

──だからダイレクトにバンドの心境が出ている。

全部出てますね。

──楽曲から気持ちがストレートに伝わってくる今作は、ちょっと新鮮だったんですよね。hozzyは、言葉の意味とその響き、音楽の構造、“伝える”ということにも疑問を持ち続けてきた人だと思っていて。

はい。

──振り返ってみると、音楽に言葉を乗せるときに“異物感”を意識している時期もあったかなと思うんです。

合わないものを持ってくるというか、合わせるというか。

──そうそう。リアルを追求して、異物感を音楽として調和させることに挑戦した時期があったと思うんです。でも今作は、そういう部分はあまり見当たらないという気がしたんです。

そうかもしれないですね。

──今作からは逆に、普遍性を追求した跡を感じる。例えば「トマト」の“鏡を見なくても ひげが剃れるくらい”というフレーズ。この部分の普遍性はすごく高いと思いまして。

気づきます?

──言葉とメロディの組み合わせが、もうこれ以上変えられないレベルにあるというか。

「トマト」は、実は僕も「うわ! こういうことか!」というのがあったんですよ。メロディと言葉が離れない、みたいな感触。

──意味が無くても存在できるというか。記号化されるような感覚。

「トマト」に関して僕がすごくいいと思ったのは、感覚的に書けたことなんです。

──感覚的というと?

「トマト」の二番の歌詞に“鏡を見なくても 君が見えるくらい 向き合ってきたけど”とありますけど、これをそのまま文章にしても意味が分からないですよね。

──確かに。

鏡を見なくても君が見えるって…

──「どこ見てるんだよ!」という話ですよね。

でしょ(笑)。まずどういう状況かも分からないし、もはや意味が無いんです。

──意味が乖離してますね。

でも、メンバーもここに対してツッコミを入れてこなかったし、自分では“意味分かんないな”って思うけど、伝わればいいかなと。言葉通りの意味じゃなくて、もっと奥のもの。

──“言葉の使い方”が変わってきたんでしょうか?

それもあると思います。「歌詞がいい」と言っていただくことが、藍坊主の特徴だと思ってて。そう言われることが今までもあったんですけど、でも僕がバカだったので嬉しくなかったんですよね(笑)。

──歌詞を褒められても嬉しくない?

いや、嬉しいですよ。嬉しいけど…結局のところ「歌詞がいい」というのは“音楽が追いついてない”ということなんじゃないかなと解釈しちゃってて。やっぱり自分たちは音楽をやっていると思ってたんで。

──詩人ではなく音楽家だと。

そう。「俺は違うんだ!」みたいな気持ち。そう思っていたんですけど、「歌詞がいい」と言ってくれてるんだから素直に認めればいいじゃんって、最近思うようになったんです。そう言ってくれてるんだがら僕は詩人でもいいやと受け入れられました。だから“すごくいい歌詞を書きたいな”という風に思考が変わってきたんです。

──更にいうと、“いい歌詞”という認識も変わってきたんじゃないですか?

そうですね。なにがいい歌詞かということを定義するのは難しいですけど…。

──「トマト」はすごくいい歌詞だと思います。

僕もなんです。歌詞は言葉じゃなくて、詩でもなくて、やっぱり歌詞は“音楽と一緒になったもの”だと思うんです。僕らの音楽って、割とメロディから作ることが多くて、でもその方法だと言葉が歌詞になりにくいというジレンマがあるんです。以前事務所に所属していたとき、外部の有名なプロデューサーの方に「いいバンドだけどもっと歌詞と向き合った方がいいよ」と言ってくださったことがあったんですよ。でも当時の僕は“なに言ってるんだこの人。うるせえな”と思ってて(笑)。

──ハハハ(笑)。

心が歪んでたんです(笑)。でもあのときあの人が言っていたのはこういうことだったのかなって。さすがだなって。同じ言葉を使っても順番がすごく重要だったり。いちばんの理想は、言葉とメロディを一緒に作ることなんですよね。

──なるほど。そういう話はミュージシャンからよく聞きますね。

「トマト」と「同窓会の手紙」は、言葉とメロディを同時に作ったらすごく良くなったんです。特に「トマト」の“鏡を見なくても ひげが剃れるくらい”というところは、歌謡曲みたいな節回しじゃないですか。そういう作り方を歌謡曲の人たちはしてたのかなとか。ここまで続けてきたけど、全然僕は分かってなかったんです。「歌詞いいですね」と言ってもらえてるのに、歌詞のことを何にも分かってなかった(笑)。全然違うところをずっと攻め続けてたなって。

──でも今から振り返ると、それは必要だったんじゃないでしょうか。

そうです、必要なんです。僕、藍坊主が崖から落ちて欲しいんですよね。

──え? 崖から落ちて欲しい?

崖がどこにあるか分からないのにギリギリのところを攻めることはできないじゃないですか。だから僕は本当のギリギリのカーブを描いて欲しいんです。だからこそ実験的なこともやってきたし、それで崖から落ちることが何回もあって。でもそういうことをやってきて、自分の中でどこが崖でどこがギリギリかっていうのがある程度見えてきていて。攻め方のバランスがとれてきているというか。

──逆にそういうギリギリのところを攻めてきたからこそ、ストレートに表現してもストレートだけに収まらないというか。

そう思います。言いたいことをはっきりと書かないという表現の仕方もあるじゃないですか。そういうことを意識的にできるようになってきたのかなと。それはこれからも、もっとやっていきたいなと思いますね。

──追求したい。

追求したい。例えば谷川俊太郎さんの詩はすごくシンプルだけど、行間に何かが漂っているような感覚。“なんでだろう?”とずっと思っていて。使ってる言葉は全然普通の言葉なのに。谷川俊太郎にしか分からないものがあるんだろうな、歌詞もそういうことがあるのかなって。だからね…楽しいです。

──楽しい?

新しい目標も見えてるなという感じがします。

──「かさぶた」に関するくだりで、“やっぱり辞められないよな”と思ったという話があったじゃないですか。“楽しい”という今の感覚は、その話にも通ずるのかもしれないですね。まだまだ追求するものがある、それが音楽を続けている理由ですか?

うーん、かっこわるい言い方かも知れないですけど、やっぱり栄光が欲しいですよね。

──いいですね。バンドマンっぽい。

やっぱり認められたいんですよ。自分たちのやり方で。たぶんそれって栄光じゃないですか。かっこわるいけど(笑)、そういう気持ちは捨てきれないですね。

──なるほど。だから自分たちだけになったとき、「かさぶた」を書いているときも、辞めることを選ばなかった。

そうですね。人に評価されるという以前に、自分たちがまず納得していなきゃいけないとかあるじゃないですか。“好きなことをやればいいんだ”という気持ちもありますけど、でもそれだけじゃ落ち込むこともあるし。だからいちばんいいのは、やりたいことをやって評価されること。

──そうですね。

ずっとそこは難しいままですけど、やっぱり終われない。“舐めんなよ”みたいな(笑)。そういう気持ちになれたのも、皆さんのおかげです。 ──感謝もあったし再会もあった。だから今があると。 信じてくれた人たちを「信じて良かったな」と思わせてあげたい。藍坊主好きで良かったって。そのときの顔を見てみたい。

──最後にhozzyから、Eggsを見てくれている若いバンドマンたちに言えることは何かありますか?

僕がですか?

──バンドの先輩として。

「先輩」と言っても…いや、もう15年か。マジか。みんな結構辞めてますもんね。今バンドやってる人たちと、僕たちが同じ年齢ぐらいのときと、状況は全然違うと思うんです。今の方が厳しいと思うんですよね。

──そうかも知れないですね。

だから下手したら僕たちよりも全然プロフェッショナルだと思うんですよ。見せ方とかも頭良く行動しないといけなかったり。だからね…何も言えない。むしろ見習うことが多すぎる(笑)。

──ハハハ(笑)。

あ、でもひとつだけ言えることは、状況がどうなっても楽しもうと思う音楽はいつでも待ってくれている、ということかな。

──音楽はいつでも待ってくれている。

自分たちが目指すところによって音楽は絶対変わってくると思うんですけど、そのことにもし疲れたとしても、それで音楽は終わりじゃなくて、全然違う音楽の楽しみ方があったよと言いたいですね。村上春樹の「ノルウェイの森」という小説がすごく好きなんですけど、石田玲子さんという登場人物の「でもある年齢をすぎたら人は自分のために音楽を演奏しなくてはならないのよ。音楽とはそういうものなのよ」というセリフがあるんです。それ、めちゃくちゃいい言葉だなと思って。

──なるほど。

「人の為ではなく、自分の為に音楽を演奏しなくてはならない」、その言葉にすごく救われたんですよね。プロは自分の為ではなく、評価される音楽を続けていかなければいけないけれど、自分が辛かったときにその言葉を知って、僕も自分の為に音楽をやってもいいのかなと思えた。そしたら距離が離れていた音楽が近づいてきたんです。音楽は懐が深いから、疲れたら自分の為に音楽をやったらいいんじゃないかなって。音楽ってそれぐらいすごいものらしいよって。“音楽はなんて優しいんだろう”って思います。



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profile

藍坊主
神奈川県小田原市出身の4人組ロックバンド。
高校時代、別々のバンドをやっていたhozzyと藤森が意気投合し、メンバーを集めてブルーハーツやウルフルズのコピーバンドである「ザ・ブルーボーズ」を結成。地元小田原のライブハウスで活動を始める。
バンド名を「藍坊主(あおぼうず)」に改名。

高校卒業後、藤森の幼馴染である田中をギターに加え活動の場所を東京都内に移す。2003年2月12日、インディーズデビューアルバム「藍坊主」をリリース。地元CDショップでのインストアライブには、噂を聴きつけた人達が650人も集まり騒然となる。その後、マキシシングル「雫」「空」を2カ月連続でリリースしインディーズチャート上位に次々ランクイン。

2004年5月にアルバム「ヒロシゲブルー」でメジャー進出。2005年3月に渡辺拓郎(Dr)が正式加入し、現在のメンバー編成となる。同年12月には初となるワンマンツアー「サジは投げられた」を開催し、話題沸騰。その後、恵比寿リキッドルーム、O-EAST、C.C.Lemon ホール、ZEPP TOKYO等、次々とワンマン公演を行いSOLD OUTとなる。

2011年5月には日本武道館にて「藍空大音楽祭 ~the very best of aobozu~」を開催し大成功に収め、同年12月には「COUNTDOWN JAPAN」に5年連続出演を果たす。

2015年には結成15周年を迎え「aobozu TOUR 2015 ~時計仕掛けのミシン~」ツアーファイナル渋谷公会堂公演を開催し、より濃い藍坊主の音楽、自分たちが信じて来た『音楽』を更に追求する場として自主レーベル「Luno Records」を設立!

秀逸なメロディーと多くの人に共感される身近なテーマを題材にした歌詞、 そしてライブを積み重ねることで身に付けた確かな演奏力と透明感のあるボーカルが魅力のバンド。

release

3rd Mini Album

木造の瞬間

藍坊主
  1. 1. 群青
  2. 2. ダンス
  3. 3. 嘘みたいな奇跡を
  4. 4. 同窓会の手紙
  5. 5. トマト
  6. 6. かさぶた
  7. 7. ブラッドオレンジ

2018.01.24 RELEASE
[初回限定盤]
CD+32Pストーリーブックレット
¥2,800(tax out)/ TRJC-1077
[通常盤]
CD only
¥1,800(tax out)/ TRJC-1078

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