アマリリスにとみー(Ba.)が加入してから、初めてのレコ発ライブである「花としてvol.6」。彼らの新しい船出を祝うために、仲間のバンドが集結した。ステージに鮮やかな4本の大輪が咲いた一夜をレポート!!
Text:坂井彩花
Photo:yupi
私たちは同じような毎日の中で呼吸をしている。代わり映えのない日常、それこそが私たちが生きる現実だ。だからこそ、いつかくるであろう特別な1日を追い求めて進むのだ。誕生日であったり結婚記念日であったり、私たちには1年の中で何日か特別な日が用意されている。ではバンドにとって特別な日とはなんだろうか。結成した日、初めてライブをした日、そして新しいレコードの発売日。これから何年経っても、大切な日は決して変わることがない。3月20日(月)に下北沢BASEMENT BARで行われた「花としてvol.6」は、アマリリスのレコ発を祝う特別な日として、ふさわしいイベントだった。
オープニングアクトで登場したのは、suzuだ。ステージに一人佇み「それは、とある女の子のお話。悩みはないでしょ?」とセリフを読み上げ、一気に場内の空気を変えた。不穏な空気が会場に漂う中、「全部、嘘」と告げ『嘘』が演奏される。合唱の伴奏のような四分音符で進行する曲で、ところどころに挟まれる不協和音は嘘にもがき苦しむ心をそのまま映しだしているようだった。続く『私を』は鍵盤のアルペジオが軽やかに響く切ないラブソング。曲の最後の和音が解決する音で終わらないのは、この恋愛がスッキリと終わっていないことの表れだろう。バンド編成にチェンジし最初に披露した『ずっと』では凛とした力強い低音ボイスを響かせ、『どうして』では叶わない恋の歌をポップに歌い上げた。最後の曲になったのは『こんな夜には』。会場を見る瞳は憂いを帯びていて、その眼差しは多くの人の胸を締め付けたことだろう。アマリリス町田(Gt.)の高校の後輩として、立派にオープニングアクトの大役を果たした。
続いて登場したのはアマリリスの盟友の1組でもある午前3時と退屈である。たかのしま(Ba.)の「どうも、こんばんは!午前3時と退屈でーす♪」という可愛いらしい挨拶を合図に、それに対比するかのようなヘビーな騒音が鳴り響く。幕開けの曲となったのはサイケデリックな音作りがきいている『労働者の女』。テンポ感やリズムがこれでもかと揺すられる曲で、出だしから観客を引き込んでいく。あにそにん(Vo.)が不敵な笑みを浮かべつつ『還れないよ』を披露したかと思えば、『感染に寄せて』では色気のある歌声を届けた。続いて演奏されたのは、新曲である『私の隣』。かき鳴らされるギターをループさせることで生み出されるイントロは歪みが激しく、まるで時空を歪めそうな勢いである。しかし展開される曲自体は符点のリズムが軽やかな空気感を作り出していて、本当に彼女たちの曲なのか疑いたくなるほどポップだった。ラップ調の歌詞で進んでいく『東京ドリームランド』、どことなくフォークな匂いがする『19才とアルコール』と曲は続く。あにそにんの歌唱力がより一層際立ったのは、アマリリスのメンバーも好きだという『歪み』。中間部にあるアカペラは、感情の波が総攻撃してくるほどエモい。ギターのタッピングがかっこいい『溶けだした器』を激情的に演奏し、彼らはステージを後にした。
3組目に登場したのは、アマリリスの熱望により出演が決まったAUSTINES。ギターロック色の強いイントロにより導かれた『GIRL』は、鶴田(Vo.)の透明感ある声が引き立つ正統派J-Rockだ。その声と真っすぐな視線が、フロアを後方まで射抜く。ドラムの連打が連れてきたのは、昨年11月に発売されたミニアルバム『Jewely』に収録されている『O.M.T』。ここ最近人気が強いシティポップに仕上がった曲で、会場にはクラップが沸いた。『orbit』は90年代のシューゲイザー感漂うポップミュージック。深澤(Key./Vo.)の指が軽やかに鍵盤の上を踊り、星屑を散りばめたようなソロを紡いでいた。大人な夜の雰囲気が漂う『sparkle』が夜を更に深める。「1番ハッピーになれる曲を演奏します」と告げ始まったのは『Jewelry』。ハイトーンを多用したギターソロが魅力的な曲で、フロアに挙がった手が左右に揺れた。ラストを飾った『Nancy』は、ベースのスラップが腹の底に突き刺さる1曲。サビからメンバー全員の集中力がグッと増し、音の波が押し寄せてくる感じは思わず鳥肌がたった。深澤は「最後まで楽しんでいってください」と笑みをこぼし、闇に消えていった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていき、本日の主役であるアマリリスの出番になった。スモークが漂い淡く濁ったステージ上でもわかるくらいに、彼らの表情は晴れやかだ。封切りとなったのは、レゲエとロックの組み合わせで曲が展開されていく『ダ・カーポ』。自然とクラップがあがった会場の様子に思わず、メンバーの笑みが零れる。二本柳(Vo.)がクセの抜けた真っすぐな歌声で『パレット』を披露したかと思うと、『花として』では町田(Gt.)が速弾きを駆使したギターソロで魅了した。間髪あけず繋がれた『ヒュールレイ』は普段よりもテンポが速く、彼らの勢いがそのまま乗っているかのよう。二本柳の額には、全力の演奏ゆえの汗がにじんでいた。
ハイハットの合図により、ダンスポップソングの『Best of my Love』がパフォーマンスされる。20歳にも関わらず「君になら騙されたい」と歌う二本柳は、どことなく色っぽくあざとさ満点だった。通常はノリのいいロックナンバーである『無重力トンネル』も、この日ばかりは特別なアコースティックバージョンで披露。ゆかごろう(Key.)をサポートに迎え、アダルティなジャズナンバーを魅せつけた。優しさと暖かさが体の芯に沁みる『スパイス』、彼らきってのハッピーソングである『Life is Beautiful』と曲は続いていく。トリの曲となったのは、今回発売したシングルのリードトラックである『Toys』。宝石箱の輝きを転じたようなハイハットの16ビート、流星の雫を音にしたようなギターの裏メロ。歌詞の通りと言っても過言ではない“キラキラのメロディー”が、そこにはぶちまけ散らかされていた。この日1番のパワフルな音圧で会場を圧巻し、舞台を後にしたのだ。
最高の1日に大きな拍手が巻き起こり、ほどなくしてそれは定期的なクラップに身を変えた。「アンコール!」の声に呼ばれ、にこやかな表情のメンバーが再びステージに舞い戻る。感情的になっている二本柳の瞳はわずかに潤み、照明を全面にうけて光っていた。アンコールとして披露されたのは、まさしく今の季節を描いた『春風』。本編を終え肩の力が抜けたメンバーの空気が穏やかで、優しい気持ちが会場中に満ちていく。桜の花びらが青空に舞うような和やかなステージングで彼らは特別な1日を締めくくった。
生きている中で、私たちは何十回とライブに行く。音楽が好きな人なら、もっとだろう。果たして、その中で印象に残っているライブはいくつあるのだろうか。10個もあるだろうか。いや、もしかしたら一過性の楽しさに過ぎず、人によっては0なんて回答があるかもしれない。数あるライブの中で印象に残るアクト、それは間違いなく人生の中で“特別”だ。その“特別な一瞬”、誰かの人生に咲く“一輪の花”になるために彼らはステージに立ち続けることだろう。これからもアマリリスという誇り高き花の今後が楽しみである。
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