Text:agehasprings Open Lab.
闘う女性は美しい。強靭で果敢で荒々しいマッチョイズムに基づいた男性の闘う姿とは違い、咲き誇る一輪の花のような凛とした姿には、誰しもが惹かれることだろうと思う。また、女性が社会進出し、その地位をますます確かなものにして久しいが、その文脈はエンターテインメントの中においても定着したと言ってもいいのではないだろうか。
例えば、2017年の全米での年間映画興行収入ランキングで1位を獲得した、スター・ウォーズの最新作『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』。この作品では、少女・レイがレジスタンスとして帝国軍との戦いの中でジェダイに成長していく様が描かれ、このレイの“戦士として”の姿は、まさしく闘う女性の象徴であった。そして、3位にランクインした『ワンダーウーマン』も、まさしく闘う“地上最強の女性”を主人公に描かれた映画だ。主人公・ダイアナを演じたGal Gadotのたくましくも凛とした美しさには、誰もが魅了されたはずだ。2位にランクインした『美女と野獣』に関しても、Emma Watson演じる主人公が、価値観や生き方の多様性を理解し、愛のためには逆境にも決して屈しない、その姿が印象的な作品であった。2017年は、誰もが「闘う女性」の「たくましさ」と「美しさ」に、あらためて魅了された年と言っても過言ではない。
では、音楽シーンはどうだっただろうか。ポップミュージックのメインストリームは、Kendrick Lamar、Jay-Z、Migosらを筆頭に、Hip Hop、R&Bなどのブラックミュージックに系譜する男性アクトがヒットチャートの覇権を奪い、一年を通して席巻したのは既に周知の事実。しかし、その反面、2010年からこれまでポップミュージックのメインストリームの覇権を握っていた、LADY GAGAやTaylor Swiftなどのフィメールアクトが、かなりの苦戦を強いられたのもまた事実だ。
その中で、存在感を示したフィメールアクトの一人であるAriana Grande。自身の作品のリリースこそなかったものの、大ヒットした映画『SING』の主題歌ではStevie Wonderと、映画『美女と野獣』の主題歌ではJohn Legendといった大御所と肩を並べる形でコラボレーションを実現した。旬な豪華アクトが一堂に会したCalvin Harrisの最新作『Funk Wav Bounces Vol.1』では、Young Thug、Pharrell Williamsが参加した「Heatstroke」に、同じく客演で参加。また、自身のLIVEで起こったテロ被害者への支援チャリティーライブに豪華アーティストを集めたことで、あらためて稀代のポップスターであることを証明した。しかし、そんな彼女であっても、BillboardチャートやSpotifyのチャートでの印象は限りなく薄かったように思える。
1stアルバムが世界中でヒットし、一躍トップアーティストの仲間入りを果たしたニュージーランドの天才SSW・Lorde。2017年にリリースされた待望の2ndアルバム『Melodrama』は、各所で大絶賛を受けた傑作アルバムではあるが、それでもKendrick LamarやFuture、Migosらの活躍に押されてしまっているのも2017年を振り返ってみれば顕著である。
しかしながら、名実ともにポップスターである名立たるフィメールアクト達が、メインストリームにおいて苦戦を強いられた裏側で、着実にその存在感を強めている「闘う女性」達がいるのをご存じだろうか?それはソロで活躍するフィメールアクトではなく、バンドのフロントマンを務める女性Vo.の存在だ。
バンドサウンド、ギターのサウンドがほとんど消え去ってしまった2017年の全米のヒットチャート。しかしながら、その裏側、UKのインディーシーンを震源地として、インディーロックが特に女性Vo.擁する新鋭バンドの台頭によって再び胎動を始めているのも、間違いなく2017年の象徴的な現象だったように思える。
今や世界的なポップバンドであるThe 1975を輩出した、UKのインディーレーベルDirty Hit Records所属の4ピース・Wolf Aliceは、最新作『Visions of a Life』で、ブリティッシュロックにグランジやシューゲイザー、トラッド・フォークやチルウェイブなど、あらゆる文脈を取り入れたジャンルレスなバンドアルバムをリリース。この縦横無尽なサウンドを擁するプロダクションが、絶妙なバランスで実現しているのも、ひとえにVo.であるEllie Rowsellの才能とカリスマ性のなせる業と言っていいだろう。しかるべくして彼女たちはスタジアム級のバンドに成長を果たした。
また、こちらもDirty Hit Records所属の新鋭インディーポップバンド・Pale Wavesは、BBCが選ぶ新人の登竜門「BBC Music Sound Of, 2018」にて見事5位を獲得。既に人気に火が付き始めている彼女達の2018年の更なる活躍が期待される。ゴシックメイクとUKパンクファッションが一際異彩を放っているVo. Heather Baron-Gracieは、今後ファッションアイコンとしても注目を集めるだろう。
ロンドンのフィメール4ピース・The Big Moonは、若くして90年代前半のUKロックのフィーリングやロックバンドならではのダイナミズムを体現する注目のロックバンドだ。昨年リリースされた『Love In The 4th Dimension』は、世界的に見てもおそらく一番ロックンロールが鳴っていたレコードであったと思う。
また、Frank OceanやVampire WeekendのEzra Koenigなどが、自身のラジオ番組で取り上げ、一躍注目を集めている、多国籍の8人組によって結成されたスーパーポップコレクティブ・Superorganism。この音楽集団でVo.をとるのは、日本人の17歳の少女 Oronoだ。どの文脈にもタグ付けされないような、洒脱で肩の力の抜けた柔軟なスタンスとパフォーマンスは、若くして既に異彩を放っている。
アメリカにおいても女性Vo.の活躍は目覚ましい。アメリカの三姉妹バンド・HAIMは、昨年リリースした新作『Something to Tell You』にて、それまでのインディーロック的な文脈を踏襲しつつも、2017年以降のポップスのスタンダードであったダンスポップを取り入れ、バンド特有のダイナミズムを持ちながらも新年のポップスならではのウェルメイドなプロダクションで、圧倒的なバランスの良さを見せつけた。
前述したように、フィメールポップが苦戦を強いられる2017年のメインストリームの裏側で、バンドにおける“女性Vo.”は、その立ち位置と存在感を増し続けていた。2017年の音楽シーンにおいて善戦していたのは、女性Vo.のバンドだけであったと言ってもあながち間違いではないのかもしれない。
では、ここでEggs登録アーティストに目を向けて見よう。私が今回ピックアップしたいのは、今回の「闘う女性」というキーワードに相応しい、さつき率いる滋賀県の4ピース・QB and planetsだ。
アーティスト写真からも分かる通り、フロントマンを務めるVo.&Gt.さつきの印象は実に可憐で、全身から発する雰囲気はまるで清楚なお嬢様を思わせる。完全に好きなタイプである。彼氏はいるの?どこに住んでるの?Twitterやってる?
しかしながら、いざLIVEになるとその印象を一瞬で吹き飛ばし、パワフルでエモーショナルなパフォーマンスを体現する闘う女性へと姿を変える。それもそのハズ。このバンド・QB and planetsは、ステージに出る直前に、Vo.&Gt.さつきが「私を姫にしてください!」という宣言をする。この宣言によって彼女は、卓越した演奏力を持つ、言わば騎士たる男性メンバーに後衛を任せ、単身前線へと躍り出す、闘う姫と化すのだ。スーサイド・スクワッドのハーレイ・クインのようなネジの飛んだバトルマニアではなく、凛とした決意と覚悟を持って戦場に臨むその姿は、さながら王国を守らんとする若き姫のようで、このエピソードだけで700回は惚れ直す。
彼女たちの楽曲は、まさにVo.&Gt.さつきのヒロイックさを十二分に発揮できるものが並んでいる。代表曲であろう「夢重力」は、叙情的なギターのフレーズの上を可憐な歌声が漂うミッドバラード。鎮まり返った水面のようなVerseからのエモーショナルなChorusパートが胸をえぐる。
そして、こちらも彼女たちの代表曲であろう「透明言葉」は、「夢重力」とは一転。変拍子のビートとサビのドライブ感が印象的なロックナンバー。Mixの関係上、かなり聴こえづらくなっているが、間奏にはさつきによるポエトリーリーディングが入っており、それがLIVEでは悲鳴にも似た祈りのような詠唱がされて、ひたすらにエモい。個人的には、さつきのヒロイックさが最も端的に表現された最高のパートだと思うため、再録の際は思い切ってここのレベルを上げて欲しい。
その他の楽曲も実に多彩。パンク由来の陽性なフィーリングとエモーショナルなメロディーが共存する「フレア」や、ダーク且つシアトリカルな展開が魅力のダンサブルなナンバー「Trip the light」。テクニカルなフレーズと変拍子、ファルセットを多用したメロなど、全楽曲中で最も複雑な構造を持つ「empty.」など、ジャンルに囚われない自由な楽曲たちが並ぶ。
ある意味ジャンルレスなサウンドに昇華してしまうのではなく、曲ごとでジャンルの異なる楽曲を体現できるのは、Wolf Alice同様Vo.&Gt.さつきのポテンシャルがあってこその業と言えよう。しかし、欲を言うと、LIVEでのヒロイックさをもっと音源でも体現できるはずなのでは、と全楽曲を通して強く感じた。今後はLIVEでのエモーショナルさとダイナミックさをうまく落とし込むようなボーカルダイレクションやレコーディングをぜひ探求していって欲しいと思う。
バックナンバーは【コチラ】から
12度マンスリープッシュアーティストインタビュー~大東まみ~
KOHAKU「アイボリー」をMusic Storeで無料ダウンロード!
北の大地よりまたまたいきの良い新人の楽曲(札幌某所「最前線」)が配信リリース
Eggs Curators コラム garan vol.2
ESAKA MUSE主催『HOKUSETSU POPS WAVE』東名阪ツアー2025年2月末より開催決定!
Shibya Sakura Stageでのクリスマスストリートライブが12月13日(金)~24日(火)で開催決定!
Eggsレコメンライブvol.21出演!〜Paper moon Endroll〜
Eggsレコメンライブvol.21出演!〜Norenn〜
Eggsレコメンライブvol.21出演!〜The カンナクラブ〜
利用規約およびプライバシーポリシーを確認し、
同意のうえ登録・ログインしてください。
利用規約およびプライバシーポリシーを確認し、同意のうえ登録・ログインしてください。
アカウント登録はこちら