Text:agehasprings Open Lab.
現在、メインストリームを席巻し、ポップミュージックのスタンダードとなった、Hip Hop、R&Bを横断するラップミュージック。それはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いであり、先日開催された第60回グラミー賞において、主要三部門の受賞こそ逃したが、JAY-Z、Kendrick Lamarら、シーンの頂点に立つラップアクトの作品が数多くノミネートされたことからも顕著に見ることができる。ラップミュージックがここまで大きなムーブメントと成り得たのは、トランプ政権発足以降の不安定なアメリカにおいて、最もコンシャスなメッセージを発信出来る訴求力を持った方法であったのと同時に、手段としても“ラップ”というアートフォームが汎用性の高さ、懐の深さを持っていたことも関係していると思う。
例えば、以前の記事で取り上げた、“ロンドンの若者たちに農作業の楽しさを伝えるためにラップが起用されている”といったこともそうだが、米ハーバード大学では昨年、英文学科の男子学生が卒業論文としてラップ音楽のアルバムを提出し話題を呼んだ。同大学において、この種の卒業論文は初めてとのことで、ユースカルチャーとしても市民権を得ているラップミュージックは、学生や若者に何かを教えるための手段として、学生や若者が自らを表現する手段として、教育の場にも大きな影響を与え始めている。“ラップ”は、もはやHip Hopというジャンルの中のみで使われる歌唱法の域を超え、世界的な表現方法としてその地位を高めているのだ。
ちなみに、ここ日本においてもラップミュージックの汎用性と懐の深さは健在。アメリカと違い、日本ではまだまだ世間一般に浸透するようなカルチャーにはなっていないのが現状だ。しかし、女性ラッパー・DJみそしるとMCごはんは、数年前から料理のレシピをラップにのせて歌う、料理ラップというジャンルを確立しており、ラップミュージックはあらためて評価の対象になる可能性を持っていると言える。
音楽解体新書3回目となる今回は、そんな“ラップ”をそれまでのHip Hop的な文脈での解釈を含め、自由な解釈で楽曲に取り入れているミュージシャンを4組ピックアップした。
プロダクションの基盤となっている、アーバンなシンセサイザーと洒落たギターのカッティングによるバンドサウンドは、Awesome City Clubらが牽引したシティポップリバイバル以降のフィーリングだ。しかしながら、このサウンドに乗る歌唱は、ぼくのりりっくのぼうよみ台頭以降のネットラッパー的なそれに通じるもので、verseのラップパートからキャッチーなコーラスに繋がる構成は、2010年初期の歌モノラップの文脈とも感じられる。ネットとリアルを自在に横断し、ジャンルレスなサウンドとして昇華する自由なスタイルは、まさに現代的だ。
Vo&trackmakerのはるひk(はるひけ)を中心に発足したユニット・NUNNUも、実に現代的な音楽を体現している若手アーティストだ。ボーカロイド以降のサウンド的かつ内省的なフィーリングを漂わせるプロダクションには、まさに現代の若者らしさが滲み出ていて、オートチューンがかかったボーカルには、SEKAI NO OWARI以降の文脈も感じられる。浮遊するように歌われる、ラップとも歌とも取れるようなボーカリゼーションは、ぼくのりりっくのぼうよみ以降のネットラップや、DAOKO以降のポエトリーリーディングから派生したフィメールラップ的でもある。前述したぜったくん同様、2015年以降の日本のシーンの潮流をしっかりと通過、咀嚼しながらも、タグ付けから解放され、ありそうでなかった独自のスタイルに着地している期待の新星。
関西出身のRapper/ProducerであるSILYUSは、昨年の『ワン!チャン!!~ビクターロック祭り2017への挑戦~』にて見事グランプリに輝き、同年幕張メッセで開催されたビクターロック祭り2017に出演した既に折り紙付きの実力者である。そのスタイルは、KOHH以降に象徴されるような、Trapのビートを基調した不穏なトラックに攻撃的なフローを乗せるスタイルだ。韓国のJay Parkに影響を受けたということもあって、DPR LIVEやSik-K、DEANら、韓国のHip Hopシーンを牽引する若手とも共鳴しているだろう部分を大いに感じる。また俳優として活動しており、そのスタイルの良さや塩顔なビジュアルの良さも注目なところ。SALUやJP THE WAVYら、シティー系の若手ラッパーが牽引する東京。そして、唾奇やMuKuRoらが牽引する沖縄ラップシーンなど、アメリカ同様、地域によって独自のスタイルが確立され、それがメディアを通して表面化し始めている日本のラップシーン。ROT、4stumpらと共に、関西のシーンを牽引する注目の若手である。
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