Text:agehasprings Open Lab.
どうやら人は見た目が9割らしい。
特にイケメンに生まれ落ちたわけでもない私は、既に31年前に戦力外通告を突き付けられたわけである。この言葉は、2005年発売の竹内一郎氏の著書『人は見た目が9割』(新潮新書)が、累計113万部のミリオンセラーになったことで世の中に浸透したと言ってもいいだろう。著書自体は未読でも、このパワーワード自体を知っている人はかなり多いことだろうと思う。しかし、私も含め案ずることなかれ。この一見容赦ない辛辣な言葉は、決してイケメンや可愛いなど、見てくれの良し悪しで全てが決まるという意味のものではなく、第一印象、ファーストインプレッションの話なのだ。
1971年に、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」は、話し手が聞き手に与える影響を、研究と実験に基づいて数値化した法則がある。その人の第一印象というのは、初めて会った時の3~5秒で決まり、またその情報のほとんどを「視覚情報」から得ているという概念を基にしたもので、その割合が、視覚と聴覚を合わせて、全体の約90%を占めているというのだ。え?それならやっぱ55%を確実に取れるイケメンが圧倒的に有利じゃね?は?
この第一印象というのは、もちろん音楽においてもかなり重要な割合を占める。
特にインターネットを介して情報が氾濫して、ユーザー側の集中力が散漫になっている現代社会においては、いかにファーストインプレッションで足を止めてもらうかが鍵となっているのは、既に誰もが理解していることだろうと思う。
楽曲に関しても、ストリーミングサービスが台頭し、ザッピングが可能になった今では、最初の数秒で相手の心を掴むことが不可欠であるし、その第一段階が成功したとして、楽曲から気になって調べたその先の、例えばアーティスト写真などのビジュアルやMusic Videoにも同じようなインパクトのファーストインプレッションが必要となってくる。意中の彼女に気に入ってもらって付き合えることになっても、その先にはまだ彼女のお父さんがいるのだ。
この、ビジュアル面でのファーストインプレッションにおいて、お手本にしてもらいたい例が、海外の新人フィメールアクトで数多く見られるので、数組紹介しよう。
イカつい体格に鋭い眼光。更には、蛍光イエローのロングヘアーが一瞬で記憶にこびり付くであろうALMAは、パフォーマンスが見た目の通り、実にパンキッシュなシンガー。
彫刻のように整ったルックスに、ウェーブがかったグリーンのロングヘアーが、まさに二次元の存在のような不思議な妖艶さを醸し出すAu/Raは、ジャケット写真に自身を模したイラストを採用しているなど、不思議系に見えて実に戦略的。
日本で言えば、名古屋のアイドルグループ・ぜんぶ君のせいだ。は、ある意味ファーストインプレッションに関して最強のアタック値を誇っている。“変な言葉の組み合わせ”を超えて、もはや“文章”まで行き切ったグループ名と、パステルカラーを基調としたビビットなビジュアルは、まさに気になる要素のみで構成されている。
早くも4回目となる、今回の音楽解体新書では、前述した「第一印象」をテーマに、ビジュアル面においてとびきりのファーストインプレッションを与えてくれる3組をピックアップした。では紹介していこう。
Vo.&SamplerのMOERIとBa.&Cho.のRINAからなるフィメールユニット・moon grin。「第一印象」に関しては説明が不要であろう、一目で誰もが気になってしまう、下手したら恋に落ちてしまうレベルのハチャメチャな可愛さだ。ショートとミディアムロングという2人のルックスのバランスも最高にハマっていて、アー写の時点で既に無双感がすごい。CanCamの表紙かよ。
そして、楽曲はというと、実に硬派なプロダクションになっていて、可愛い見た目に浮足立っているリスナーを、しっかり楽曲で気持ち良く裏切ってくれるのがニクい。現時点での彼女たちの代表曲であろう「Milkyway」は、Hip Hop然としたビートのトラックにSSW然としたソングライティングを持ち込んだアーバンなナンバーになっていて、メロディーもアレンジも実にセンスが良い。
更にVo.MOERIのボーカリゼーションも、ルックスのコケティッシュからは真逆と言ってもいい、地に足の着いた歌声を聴かせてくれる。この「Milkayway」。LIVEによっては、Vo.MOERIがMPCを叩きながら歌うバージョンもあるようで、しっかりとHip Hopを通ってきたであろう、このユニットの文脈にニヤッとする人もいるだろうと思う。
そして、ポテンシャルという点で私が勝手に言及したいのは、編成の自由度が許されているという点。シーケンサーを活用しながらも、Vo.MOERIはギターやMPCを曲によって使い分け、グルーブの軸となるベースは人力という、ポイントをしっかり押さえた現在の編成も非常にクレバー。そして、この2人というのが重要だと私は思う。
ストリーミングが主流になった2018年以降のシーンで、今後肝になってくるであろうポイントが“音源とLIVEをいかに切り離せるか”だと思っている。例えば、海外ではプロダクション自体は打ち込みによって作られたHip HopやR&Bのナンバーでも、LIVEではフルバンドセットで演奏されるのが基本的になっていて、プロダクションとLIVEは別物であるという認識が強い。そういった意味で、音源はストリーミングとフレンドリーな打ち込み主体のサウンドを採用しながらも、LIVEでは公演によって如何様にも編成を変えることができる状態にある今のメンバー構成のアドバンテージは大きい。
また系譜こそ違うが、ceroやLUCKY TAPESなどは、中心メンバーが2~3名の少数だが、LIVEではコーラス隊やホーン隊、ストリングスなども連れた、大所帯になるコレクティブ的なスタイルがそうだ。可愛いドラムを加入させて、最強のフィメール3ピースバンドになるのも手だが、ここは2人で行けるところまで行って欲しいところ。
どこもかしこも多様化が叫ばれる昨今において、ここまで単純明快なド直球の「わかりやすい」ビジュアルのバンドは中々に珍しい。ファーストインプレッションの時点で、彼女達が一体どんなサウンドを鳴らし、どんなパフォーマンスをするのかが不思議と分かってしまう人も多いんじゃないだろうか。Vo.がマッシュルームボブカットだから、バンド名もThe Mash。これほどまでに1ミリのブレの無く腑に落ちる整合性も、今の時代中々出会えるものではない。この感覚は、ぽっちゃり体系の「太(ふとし)君」に会えた時の感動に近いものがある。
そして、サウンドの方に関しても、そのビジュアルから想起されるリスナーのイメージを全く裏切らない。ガレージロックをベースにしたオールドスクールな泥臭いロックンロールに、攻撃的かつエキセントリックな内容を多分に含んだ歌詞。そして、オールドスクールな「ザ・ロックバンド」とも言うべき、荒々しいスタイルのパフォーマンス。前述したMoon grinと違って、彼女たちはファートスインプレッションからリスナーを全く裏切らないのだ。ロックという音楽が、社会のはみ出し者と呼ばれる人たちを決して裏切らないように、彼女達も我々のイメージを裏切らない。一つ裏切ると言えば、彼女達が実は真面目で良い子たちだというところだろうか。
初期の毛皮のマリーズや、キノコホテル、ソロアクトで挙げれば大森靖子など、エキセントリックでアバンギャルドなキャラクターをもって、1960~1970年代の空気感を丸ごとリバイバルさせるThe Mash。キャッチコピーとして「1996年日本製、最も見苦しいロックンロールバンド」と銘打ってはいるものの、それが皮肉にすら感じられるほど、ルックスが洗練されている感じは、まさに平成生まれの若者らしい。最近の若い子は皆なぜかシュッとしてるんだよ。嫌になっちゃうよね。
お洒落な大学生が読むファッション誌の表紙かよ!思わずそんな嫌味がこぼれてしまうほど、爽やかで整った最近流行りの塩顔系イケメンのマスクを持つ山口諒也がVo./Gt.を務める東京の3ピースバンド・Absolute area。昨年の未確認フェスティバル2017では、ファイナルステージに出場し新木場コーストを沸かせた実力者である。
ファーストインプレッションはまさに完璧そのもの。めっちゃカッコイイ。もし彼が合コンに来れば、第一印象で女子全員の票を攫っていくに違いない。私はピエロに徹するしかない。しかし、それでいて友達にいそうなソフトな雰囲気もあり、男ウケもきっといいだろう。既にインディーシーン界隈では人気急上昇中とのことで、それも頷ける。
しかしながら、このAbsolute area。もとい山口諒也は、もちろんこのビジュアルのみで人気を獲得しているわけではなく、パフォーマンスに関しても実際に凄いポテンシャルを見せてくれる。3ピースにしては手数がやけに多いスキルフルなリズム隊は、同じくリズム隊がやけに手数の多い3ピースバンド・UNISON SQUARE GARDENを彷彿とさせ、3ピースらしからぬ質量のダイナミズムを生み出している。そんな圧倒的な熱量を誇るサウンドに乗るメロディーは、年相応の青さを感じさせながらも実にキャッチーで、たくさんの人に愛されるポップさを持ち合わせている。そして、何と言ってもやはりVo./Gt.山口諒也のステージ映え。実際に目の当たりにしたが、これが本当にすごい。爽やかでソフトな山口諒也の印象はステージ上で一変。名立たるビッグバンドのフロントマンにも比肩するであろう圧倒的な存在感を示すそのポテンシャルの高さは、生まれ持った天賦の才だ。蔦谷好位置をもってして「バンドのボーカリストとして必要なものを全部持っている」とまで言わしめたのは伊達ではない。
現時点でここまでの才覚を表しているのだから、5年後、10年後には果たしてどれだけのボーカリストに成長しているのだろうか。世界的にバンドミュージックが流行っていないと言われて久しいが、彼らのようなバンドがいるなら、きっとバンドミュージックの未来は明るい。
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