Text:agehasprings Open Lab.
さて、【前回】【前々回】と2015年のBring Me The Horizonの『That’s the Spirit』のリリースに端を発した、シーンの再起動とも言うべき新たな潮流を、大きく4つに分けて分析してきました。では、それから2年経った、2017年の今のシーンの動向は実際どうなっているのか。実は、前述してきた4つのムーブメントの動向に沿って分析しようとしてもそうは問屋が卸さない、というのが現状であると言えます。4つのムーブメントは、それぞれの文脈で形成されるシーンの枠組みを大きく飛び越え、多くのバンドが様々な形で文脈を受け取り消化。複合的な構造を持つ、独自のサウンドとして発信されてきました。結果として、4つの大きなムーブメントは複雑に絡み合いながらも一つの大きな流れとなり、そこから更に枝分かれし、細分化された文脈が生まれ続けているように思います。実際に、2017年は4つの文脈を様々な解釈で取り入れた複合的なかつ革新的な作品がいくつも上梓されています。
最終章であり、後編となる今回のコラムでは、今年2017年に上梓された作品の中から、今年のシーンの動向を象徴するようなアルバムをピックアップし、紹介していきたいと思います。
UK産メタルコア・Our Hollow, Our Homeの1stアルバム『Hartsick』は、モダン・スクリーモ以降の特徴でもあるメタリックで、重心の低いアプローチを更に深く、鋭く追求。更には、『That’s the Sprit』以降の象徴とも言うべき、壮大なプロダクションの文脈をも受け継いだ、まさに“2017年の純正モダン・メタルコア・レコード”とも言うべき1枚です。プログレッシブに転調しまくる展開の多彩さも然ることながら、特筆すべきはツインボーカルの掛け合いの妙。アグレッシブさとメロディアスさを持ち合わせたTobiasのクリーンパートと、ブルータルさとテクニカルさを持ち合わせたConnorのスクリームパートの応酬が描き出す、“静と動”ならぬ“動と動”の超高質量なコントラストは、このジャンルの王道とも言うべき魅力を最大限にまで引き上げる事に成功。自主制作でありながらも、その類まれなるポテンシャルで現行のシーンを王道かつ正統に刷新してみせた渾身の快作。
UK産メタルコア・Oceans Ate Alaska。暴風雨のごとく荒れ狂う変態性を搭載し、モダン・メタルコアの最高峰を提示した、聴き手にとっては意味不明でしかなかった前作『Lost Isles』から、ボーカルの交代劇を経ての最新作『Hikari』。そのタイトル通り、琴を始めとして、日本の楽器を大々的にフィーチャー。更には、ジャズのマナーをも大胆に呑み込み消化し切った、前作をも凌ぐ変態性を搭載したフューチャー・メタルコアとも称するべき、メーターを振り切りまくった傑作であり問題作です。プログレ、メタルコア、デスメタル、マスコアなどを雑多に呑み込んだごった煮感や、先が全く読めない展開や変拍子の多用などのOAA節は今作でも健在。しかし、驚くべきは作品全体を通して感じる、ある種のキャッチーさ。おそらく、比重を大幅に増やしたクリーンパートや、日本の楽器による和の旋律、ジャズの洒脱な要素を取り込んだことが、プロダクションに洒脱でキャッチーなフィーリングを付加することに一役買っているのでしょう。リスナーのニーズや、LIVEでの機能性などを半ば無視する形で、プロダクションのクオリティーをひたすら突き詰めた結果。それが、一気にマスに作用する結果となったのは非常に面白いことです。
エレクトロコア/PHCバンド・Palisadesの3rdアルバム『Palisades』は、まさに『That’s the Spirit』以降のシーンのサウンドを総括した、オムニバス的でありながらも2017年のシーンを象徴するような1枚に。彼らのこれまでの作品に、バンド独自のカラーとして一貫して漂っていたエレクトロコア由来のチャラさや、ヒップホップ由来の不良っぽさを今作では一切排除。代わりに、ダークでメランコリックなフィーリングと、エモーショナルなメロディー。そして、壮大な展開と緻密なアレンジメントで再構築されたプロダクションは、まさに『That’s the Spirit』直系とも言うべきサウンド。しかし、それを単なる模倣ではなく確固たるオリジナルのレベルまで昇華できているのは、このバンドの器用でセンスフルなところ。今作のリード曲である「Let Down」はダンスポップ一色になったポップミュージックシーンに共振。ダンスミュージックのマナーを取り入れ、ポスト・エレクトロコアなアプローチを実現した1曲。類まれなセンスとバランス感覚で見事に体現された、シーンの現在地を示す1枚。
フランス産メタルコアバンド・Novelistsの2ndアルバム『Noir』は、そのタイトルの通り『That’s the Spirit』以降の作品に共通する、黒を基調としたダークでダウナーなフィーリングでトータル・デザインされた1枚。プロダクション的な部分で言えば、彼らのバンドとして特にエッジーな部分を、更に鋭く研ぎ澄ませた印象。流麗なギターのフレーズは更に美しく舞い、強靭なビートとグルーヴはNu-Metalの文脈を取り入れ、更に逞しく地を鳴らしています。そして、Vo. Matteo Gelsominoの進化も顕著で、更なる攻撃力を手にしたスクリームはもちろん、今作ではラップも披露。特筆すべきは今作から劇的に比重を増やしたクリーンパートで、溜息さえ出るような妖艶な魅力を垣間見せています。全編クリーンパートのみで構成され、ホーンパートによるグラマラスなアレンジを施し、メタルコアにおける完全な“静”を表現し切った「Monochrome」。ポスト・メタルコアの到達点とも言うべき楽曲と言って差し支えないキラーチューンです。時代の動向と共振しながらも、バンドとしての正しい進化を提示してみせた、2017年のメタルコアのニュー・スタンダード。
ロサンゼルスのメタルコアバンド・Volumes。クリーンVo.の交代を経て上梓された3rdアルバム『Different Animals』は、これまでの作品でDjentメタルコアを基調に取り入れていたJazzやクラシックなどの実験的な要素を排除。代わりに、新Vo.であるMyke Terryのクリーンボーカルを軸に据えた、ポスト・メタルコア的なアプローチで作品全体を通して“歌”の印象が強く残る1枚になっています。バッキングは、これまでのDjentメタルコアを踏襲しながらも、Nu-Metal由来のグルーヴ感重視なバウンシーなビート感に傾倒。「On Her Mind」においては、ラッパーを客演で迎えるなど、チャートを席巻するR&Bやヒップホップなど、メインストリームのアクト達の動向を敏感に捉え、Volumesなりに解釈したアティチュードも顕著に見られます。
2010年にリリースされたSleeping with Sirensの1stアルバム『With Ears to See and Eyes to Hear』はハイトーンPHCの金字塔的なアルバムとして多くのフォロワーを生み出しました。レキシントン産PHCバンド・Picturesqueの1stアルバム『Back To Beautiful』は、7年越しにその歴史を刷新した、ハイトーンPHCの新たな金字塔的アルバムと言えます。バンドのフロントマンであるKyle Hollisが持つのは、掛け値なしの “神の声”。今なお、シーンきっての神ボーカルとして頂点に君臨するSAOSINのAnthonyが有する、断末魔のようなプリミティブな揺らぎと、ハイトーンVo.の代名詞であるSleeping With SirensのKellin有するハイトーンを、更なるハイトーンで捲し立てる驚異のボーカルスタイル。その2つを併せ持つKyleの歌声は、まさに次世代の神ボーカルと言って差し支えない才能でしょう。プロダクションの方はというと、この歌声が最大限に生きるであろうSAOSIN以降の浮遊感のあるギターリフが特徴的な空間系のサウンド。そこに緻密なデジタルエフェクトが付加され、見事にモダナイズされた、2017年版PHCの決定版ともいうべき1枚になっています。
オージー産PHCバンド・Awaken I Amの2ndアルバム『Blind Love』は、これまでのPHCの文脈の地続きにありながらも、現行のポップミュージックとも共振した、実に2017年的な1枚であると言えます。前作までの「R&Bの要素を取り入れたPHC」路線を今作において脱却。オルタナロック由来の強靭なバッキングと、The Weekndの台頭に端を発する、Indie R&B由来のダークでメランコリックなフィーリングに傾倒したプロダクションが、今作における顕著なシフトと言っていいでしょう。そのドープでミステリアスなバッキングの上で、踊るように歌う、線の細い儚なげなハイトーンボーカルが紡ぎ出す空気感は、まさにThe Weekndの初期作品にも漂うものです。リバイバル・ムーブメントの渦中にありながらも、視野を広く持ち、メインストリームと共振することで、ジャンルの壁を飛び越えんとする野心に溢れた1枚。
1stアルバム『Values & Virtues』にて、シンガロングパートなど、既存の枠に当て嵌まらないアプローチで、最新型の叙情系PHCサウンドを提示し話題を集めたBurning Down Alaska。そんな彼らが、サウンドを一新する為にALAZKAに改名。満を持して上梓された事実上の2ndアルバム『Phoenix』は、1stアルバムにも流れていた叙情系PHCのフィーリングを受け継ぎながらも、新Vo.Kassim Aualeが持つシーン屈指のソウルフルなクリーンパートの画期的な導入が実施された1枚。これにより、寒々としたテクスチャが特徴の叙情系のプロダクションに、熱量溢れる肉体的なダイナミズムを付加することに成功させ、叙情系というジャンルを次の次元に推し上げた革新的なアルバムに。多彩なアレンジメントや楽曲構成の妙、ニヤッとしてしまうようなエモいギターフレーズなど、魅力として語るべきところは多々ありますが、やはり何と言ってもこのバンドにおける強みは前述したOur Hollow, Our Home同様ツインボーカルの妙。掻きむしるような叙情系スクリームとソウルフルなR&B系クリーン。まさに水と油とも言うべき、対照的なボーカルが紡ぎ出すハーモニクスは今のシーンにおける最高峰と言えるでしょう。
今回ピックアップした8枚を通して感じられる、2017年のヘヴィミュージックシーンの顕著なアティチュードは、“メインストリームとの共振”という1点に集約されるのではないかと、私は解釈しています。これまでもエレクトロやヒップホップ、R&B、ジャズ、マスロックなど、ありとあらゆるジャンルを呑み込み、劇的な進化を続けてきたヘヴィミュージックシーンですが、振り返ってみれば、それもあくまでシーンの中でのインディペンデントなものでしかなかったのではないかとも感じられます。Bring Me The Horizonによる“ヘヴィネスの再定義”は長年横たわっていた壁を内側から破壊、表現の更なる自由を手にしたシーンはその外への広がりを見せ始めています。例えば、爆音によって行われるLIVEではエレクトロサウンドによる緻密なアレンジメントの音など、ほとんど会場で聴き取ることはできないでしょう。しかし、パフォーマンス想定ではなく、あくまでプロダクションのクオリティーを追求したアレンジメントをするという点においては、Max Martin以降、現在のポップミュージックのスタンダートとなっている“トラックアンドフック”による「プロダクション至上主義」に共振していると言えるでしょう。また、2016年以降、特に顕著なのがR&B、Hip Hopの影響を色濃く反映したバンドが増え続けているという点。これは、Issues以降のNu-Metalリバイバルの二次作用的な捉え方もできますが、同じくして2016年以降メインストリームを席巻しているのがR&BとHip Hopのアクト達で、彼らの動向やメインストリームのパラダイムシフトに、ヘヴィミュージックシーンのバンド達も共振しているのはおそらく間違いないでしょう。
シーンを飛び越え、進化を始めたヘヴィミュージックシーンは今一番面白いことになっています。是非注目していただきたい。
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